郵政研究所月報
1998.2
信書独占下の効率的な郵便料金
第一経営経済研究部長 井筒 郁夫
【要約】
1 はじめに
公益企業の料金に関し、できる限り経済効率的に設計するための経済理論を整理した上で、法的独占下の信書が中心をなす通常郵便物の第1種郵便物及び第2種郵便物の料金について、このような経済理論にも適合した料金設計が行われているのかどうかについて検証する。
2 郵便ネットワーク・システムの概要とその費用構造の特徴
郵便ネットワーク・システムは、引受・取集、区分、輸送、配達処理部門に大きく分けることができ、郵便物の流れに従って、これら一連の処理を結びつける垂直的な階層構造を持っている。このような郵便ネットワーク・システムは、労働集約型の費用構造を持つ。区分処理は、技術革新の恩恵を最も被ってきた部門であるが、最後の宛先までの配達自体は、人間の手によって行われざるを得ない。そのため、技術革新が郵便事業の費用削減に効果を発揮する程度には、一定の限度がある。大きく規模の経済性等が働き、「自然独占」となる費用構造をもつ。また、ピークロード構造を持つ。
3 郵便料金設計の現状
郵便料金設計の基本的考え方として、「低廉性」と「あまねく公平性」(ユニバーサルサービスの提供)を確保しつつ、独立採算により郵便事業全体で収支相償でなければならない。通常郵便物については、独特の料金制である「全国均一料金制」が採られている。
第1種郵便物の料金は、定形郵便物と、定形外郵便物に区分し、重量が増えるに従って高額となる料金設計が行われている。我が国では、はがきである第2種郵便物の料金は、伝統的にかなり低めに設定している。我が国は、諸外国と比較し、はがきの利用が極めて多いため、このような料金設計は、実質上、郵便料金全体の水準を引き下げていることになる。
第1種郵便物と第2種郵便物に関して、大量の郵便物を差し出し、かつ、差出人が、事前に区分する等一定の条件を満たす場合に、各種割引料金が設計されている。利用者区分割引、広告郵便物割引、市内特別郵便物、バーコード付郵便物割引がある。
4 効率的な料金理論と郵便料金での採用状況
効率的な料金水準としては、限界費用による料金設定方式が最善であるが、規模の経済性があるため、平均費用が逓減する場合は、当該公益企業は、赤字は不可避となる。収支均衡の制約下で、できる限り経済的厚生を大きくするための料金設計方法としては、料金を平均費用のレベルに設定することが、セカンドベストとして妥当な料金となる。郵便料金の場合も平均費用による料金設定方式が採用されている。また、「全国均一料金制」の採用により、全国レベルでの平均費用となっている。「全国均一料金制」は、信書送達のユニバーサルサービス確保のために「公正・公平」な料金として妥当とされるだけでなく、効率性という点からも、取引費用が小さくなることにより、全国レベルでみると平均費用を引き下げる効果を持っている。
効率的な料金体系として、収支均衡の制約下において、平均費用による料金設定方式を前提とするが、完全配賦費用料金だけでなく、可能な限り経済的厚生を高くするため、いろいろな経済理論が展開されてきている。 |
|