郵政研究所月報
1998.5
細分化・分極化・多様化の傾向を示す視聴者行動
―多チャンネル時代の視聴者行動に関するアンケート調査結果速報版―
通信経済研究部長 上條 昇
通信経済研究部研究官 外薗 博文
【要約】
郵政研究所では、多チャンネル化に伴って視聴者行動がどのように変化するかを明らかにするために、平成9年10月に「多チャンネル時代の視聴者行動に関するアンケート調査」を実施した。本調査は、関東圏のCATV加入世帯、CSデジタル放送加入世帯及び一般世帯(CATV及びCSデジタル放送に未加入の世帯)から抽出した計7,100世帯を対象に、平日1日に実際に視聴したチャンネル及び時間帯、視聴を希望する番組ジャンルと時間帯などを尋ねたものであるが、そこから得られた示唆は次のとおりである。
1 CSデジタル加入世帯においては、一般世帯やCATV加入世帯に比較して、情報機器の所有比率が高く、また、その構成員は自分専用テレビの所有比率、イノベーション度、未来型テレビの利用意向などが高い。
2 CSデジタル加入世帯の視聴者は、見たい番組は深夜・早朝でも見る比率が高いなどテレビへの愛着がやや強い傾向が見られる。
3 回答者全体の平均テレビ視聴時間は一般世帯、CATV加入世帯、CSデジタル加入世帯でほとんど差はない。ただし、調査日にテレビを実際に視聴した人だけを取り出すと、CSデジタル加入世帯の視聴者の平均視聴時間は他の世帯に比べて約27分(9%)長い。いずれにせよ、CSデジタル加入世帯においては、既存放送局の平均視聴時間はやや減少し、いわゆる視聴者が多数のチャンネルに分散、細分化されるという「細分化」の傾向が見られる。
4 CSデジタル加入世帯の視聴者は、一般世帯の視聴者を基準に比較すると、視聴時間の伸び率よりも視聴チャンネル数の伸び率が小さく、視聴ジャンル数はわずかではあるがむしろ減少している。視聴者が自分の好みのジャンルの番組を集中して視聴する「分極化」の傾向がうかがえる。
5 CSデジタル加入世帯の視聴者の視聴チャンネル数や視聴ジャンル数は、他の世帯に比較して視聴者間のばらつきが大きく、視聴行動の「多様化」の傾向がうかがえる。
6 一般世帯、CATV加入世帯、CSデジタル加入世帯の視聴者の間で番組ジャンル毎の希望視聴時間に大きな差はないが、実際に視聴した時間はCSデジタル加入世帯の視聴者において映画、アニメ、スポーツ、子供向けなどのジャンルで大きくなっている。また、希望視聴時間と実視聴時間の差はCSデジタル加入世帯の視聴者において最も小さく、番組ジャンルという点における満足度はCSデジタル加入世帯の視聴者が最も高いことが示唆される。
7 一般世帯とCSデジタル加入世帯の視聴者の間には視聴行動においてかなりの差が観察された。それに対してCATV加入世帯の視聴行動は、一般世帯とCSデジタル加入世帯の視聴行動の間に位置付けられる場合も多かったが、CSデジタル加入世帯とは逆方向の結果が示される場合もあった。これは、本稿の分析がCATV加入世帯の視聴者の属性の特徴等を十分に吟味していない面もあろうし、他方CATV加入世帯における自主放送の視聴時間がCSデジタル加入世帯に比べて比較的小さいなど、我が国における多チャンネルメディアとしてのCATVとCSデジタル放送の性格の相違に起因する面もあろうかと考えられる。
8 以上のCSデジタル加入世帯と他の世帯の視聴者行動の差異は小さなものであり、また、平日1日のみの調査であるため、これをもって「マスオーディエンス」としての視聴者の性格が基本的に変質した、というような過大な評価は避ける必要がある。 |
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