研究

季刊 個人金融2025年秋号

発行年月 2025年10月

特集 

経済格差の拡大と暮らしへの影響

格差の拡大は、経済成長の低下、社会の不安定化等の問題を生じさせるとともに、教育機会の喪失、貧困の連鎖や健康の悪化な
ど個人の生活にも大きな影響を与えます。今回の特集では、所得や資産の経済格差に関する現状を分析するとともに、格差が生じる要因の一つである非正規雇用と正規雇用間、男女間のそれぞれの所得格差に焦点を当て人々の暮らしへの影響について考察します。
また、格差の拡大は中間層の衰退にもつながり、社会の不公平感や不満が増大し、社会的な混乱や対立を招く可能性がある。現状を分析し、改善策を考察します。

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目次

特集

所得格差・貧困の近年の動向

一橋大学経済研究所 特任教授 小塩 隆士

【ポイント】
近年、①所得格差や貧困を示す指標は一般的な認識とは異なり、総じて落ち着いているが、②背後には、所得分布の重心が低い方向にシフトし、いわば「みんな仲良く貧乏に」なっていることが挙げられる。③貧困リスクはますます現実的なものとなっている。社会保障・税などの再分配政策は貧困リスクを意識して見直す必要がある。

    日本における世代間資産格差の現状と若年層の金融経済・投資教育の意義

    一般社団法人 投資信託協会 広報部調査広報室⻑ 青山 直子

    【ポイント】
    日本は他国比較において資産格差が小さいが、富裕層・非富裕層とも資産水準が低く、現役世代の所得格差拡大が将来 の資産格差を拡大させる可能性がある。格差拡大の抑制を図るためには資産の収益率を高めるための長期投資が必要で ある。適切な金融経済・投資教育を提供することが重要であり、深刻な格差拡大の回避にも繋がる。

    福祉型国家、スウェーデンの経済格差の現状と対応

    立命館大学 経営学部教授 岸田 未来

    【ポイント】
    スウェーデンでは、時間あたり賃金で比較すると有期雇用・パートタイムと無期雇用との賃金格差が大きくなく雇用主にとっては異なる雇用形態を利用することで直接的な人件費削減を行うインセンティブは少ない。スウェーデンにおける有期雇用と短時間パートタイムの増加が、短時間労働の増加による月あたり賃金の少なさという形で賃金格差の拡大に結びついている。

    非正規雇用の拡大と家計・GDP 成長率への影響

    立命館大学 国際関係学部・研究科特任教授 大田 英明

    【ポイント】
    「 失われた 30 年」といわれる長期経済低迷の背景には GDP の大半を占める消費支出の減少がある。特に全労働人口の約4 割を占める非正規雇用の拡大が、いかに家計の可処分所得及び実質賃金の長期低下を招き、貧困率の増加につながったかを関連指標を用いて計量的に分析・検証する。

    非正規雇用と正規雇用の格差と移動障壁の現状
    京都先端科学大学 人文学部教授・学部長 佐藤 嘉倫

    【ポイント】
    賃金や社会保険加入において両者間の格差は依然として大きく、近年は移行障壁も高まっている。非正規雇用者と正規雇用者の格差および非正規から正規への移行障壁の変化をパートタイム・有期雇用労働法の施行や無期転換ルールの導入などの動向を踏まえ、最新データで分析し格差と移動障壁の現状と格差緩和の方策を検討する。

    男女の所得の格差の是正 ~ Child Penalty の推計

    ㈱大和総研 経済調査部 研究員 高須 百華

    【ポイント】
    日本における男女の所得格差は、出産・育児を契機に拡大する傾向がある。特に第一子の出産後、女性の労働市場での成果が変化する現象は「チャイルド・ペナルティ(Child Penalty, CP)」と呼ばれている。CP の影響が長期にわたって持続することが、男女間の所得格差を固定化・拡大させる構造的要因となっている。子育てにかかる金銭的・時間的コストを男性や企業も含め社会全体で担うことが、持続可能な社会の実現に向けた鍵となる。

    職業とタスクからみる仕事内容のジェンダー格差

    学習院大学 法学部准教授 麦山 亮太

    【ポイント】
    日本の男女間賃金格差は縮小傾向にあるが、依然先進国のなかでも大きい水準にある。格差が生じる重要な要因の一つは、男女の従事する仕事が異なることにある。男女間の仕事の違いは、ジェンダー規範の影響を受けた労働者や雇用主の行動、あるいは労働市場の構造的制約といった社会的要因から生じている。
    男女間の職業とタスクの分布から、仕事の違いが男女間賃金格差を生んでいることを明らかにする。

    日本の中間層の動向 ―所得分布全体低下の中の家計

    駒澤大学 経済学部准教授 田中 聡一郎

    【ポイント】
    日本の中間層は長期的に縮小傾向にあり、所得分布全体が低所得化している。2015 年時点では中間層が57.5%だったが、1985 年基準で見ると2000 年以降は中・高所得層が減少し、低所得層が増加している。さらに2018 〜2023 年の調査では、すべての所得階級の階級値が低下し、現役世代では上位中間層の割合も低下している。所得分布全体の低下は現在も課題となっており、中間層の衰退に対しても影響を及ぼしている。

    ※【ポイント】は事務局で作成したものであり、執筆者の承諾を得たものではありません。

    支援活動フロントライン

    「高齢になっても 障がいがあっても あなたに寄り添い 守ってくれる人がいる」 の理念のもと、地域の金融機関と提携して活動

    NPO法人市民後見センターはままつ 理事長  津田 理加

    書評

    河野 龍太郎 (著)
    『日本経済の死角―収奪的システムを解き明かす』

    東京女子大学 現代教養学部教授 長谷川 克之

    ダニエル・ヴァルデンストロム(著)
    『資産格差の経済史- 持ち家と年金が平等を生んだ』

    一橋大学 経済研究所教授 森口 千晶

    季刊個人金融 20年の歩み(2018年~2023年)

    2026年夏号で創刊20周年を迎えます。
    今号から数回にわたり、20年を振り返る図表を掲載します。

    お問い合わせ先

       

    一般財団法人ゆうちょ財団 研究部

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