季刊 個人金融2024年夏号
発行年月 2024年7月
特集
学校における金融経済教育
キャッシュレスの進展、成人年齢の引下げ、金融トラブルの多発・低年齢化など児童、生徒、学生を巡る経済社会の環境が激変しています。こうした状況の下、適切な金銭感覚を身に着け社会の中で生きる力を育み、自らを金融犯罪などの脅威から守り、資産形成を行っていくためには、学校現場での金融経済教育の重要性は極めて高い。
一方で、授業時間の不足、授業を受け持つ教員の知識・経験不足、効果的なカリキュラムや教材の開発といった課題も見られます。夏号では、学校における金融経済教育が直面する課題に対して今後取るべき対応策について考察します。
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目次
特集
児童に対する金融経済教育
山梨大学大学院総合研究部教育学域教授
山梨大学教育学部附属小学校校長 神 山 久 美
【ポイント】
小学校低学年は、各家庭でのこづかいを通した教育が重要となるのに対して、小学校高学年から始まる家庭科は、実践的・体験的な活動を通すという特質があり、児童の「主体的・対話的で深い学び」の実現を目指す。学校への金融経済教育の支援が求められており、新たに設立された金融経済教育推進機構の活動が期待される。
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高等学校における金融経済教育と長期的な視点の醸成
京都産業大学経済学部教授 西 村 佳 子
県立広島大学地域創生学部教授 村 上 恵 子
【ポイント】
学びに自信と積極性がある高校生については、現時点で金融経済に関する知識レベルや不確実性の意識が十分でなくても、生きていく上で起こり得る病気や災害、失業時や定年後に必要な資金などについて意識を持たせれば、「長期的・計画的な資金管理の大切さを理解する」などといった長期的視点の醸成が図れる可能性がある。
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高校生の金融リテラシーと金融経済教育
岡山商科大学経済学部専任講師 渡 辺 寛 之
【ポイント】
性格的な傾向は、金融リテラシーレベルに影響を与える。金融リテラシーを伸ばしてゆくには、非認知能力の形成に対してコミットしてゆくような方法が考えられるが、金融経済教育を「人的資本への投資」として捉えた手厚い教育が望ましいのか、それとも「生活を豊かにするために全員に機会が保証される教育」として捉えて高校生全体に最低限の知識を広く薄く指導するべきか、金融経済教育の方向性についての議論が求められる。
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成年年齢引き下げと高校生に対する金融経済教育
法政大学大学院政策創造研究科准教授
公益財団法人消費者教育支援センター理事・首席主任研究員 柿 野 成 美
【ポイント】
成年年齢引き下げを契機に改めて注目された消費者教育と金融経済教育は不可分の関係にあるが、「時間がない」という現場の教員にとっては、今後さらにその連携方法や教育課程編成を視野に入れた検討が必要である。被害防止を強調するだけでなく、大人になることへの前向きな気持ちを持たせた生活設計の工夫や、持続可能な社会の創り手を関連教育の連携のもとでいかに育むことができるかの検討など残された課題は大きい。
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大学における金融経済教育を取り巻く環境変化と実践事例に関する検証
大阪公立大学経営学研究科商学部准教授 北 野 友 士
【ポイント】
大学生に対する金融経済教育に関しては、少しずつ基本的な教育プログラムが構築されてきているが、まだまだ課題がある。筆者と日本FP協会との連携授業の実践例を紹介するとともに、その教育効果を検証したところ、受講者の金融リテラシーを高めるのみならず、望ましい金融行動を促すなどの教育効果が確認できた。
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教職課程における金融経済教育の現状と課題
-金融経済教育を行える教員の育成よりも、適切な外部連携ができる教員を-
㈱大和総研 金融調査部 研究員 瀬 戸 佑 基
【ポイント】
教員間では、経済学関係の知識量に関して不足やばらつきの可能性があるものの、教職課程においてはすでに学ぶべき内容が多く、金融・経済関連の内容の講義のみを特に拡充することは難しい。教職課程では、金融・経済関連の内容そのものではなく、外部機関との適切な連携の方法や事例を重点的に教えることが現実的だ。
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特別支援学校における金融教育
東京家政学院大学現代生活学部教授 小 野 由 美 子
【ポイント】
知的障害のある消費者の金融教育のポイントとして、①お金の大切さの理解、②電子マネーも貸し借りしない、③はっきりと断ること、④あきらめずに相談することが大切である。また、学校教育に加えて、地域の社会資源を生かした社会教育も重要であり、その拠点の1つに消費生活センターがある。生活のスキルを向上する取組みは、社会の一員として主体的に生きるために、そして、社会保障制度の実行性を高めるためにも重要である。
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※【ポイント】は事務局で作成したものであり、執筆者の承諾を得たものではありません。
金融経済教育の取組み
生命保険文化センターによる金融教育への取組み
公益財団保人生命保険文化センター
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支援活動フロントライン
「消費者の権利を守る活動」
特定非営利活動法人消費生活相談員の会さが事務局長 原 ま さ 代
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ゆうちょ財団トピックス
諸外国の金融教育戦略における社会人・職域向けの取組みについて
一般財団法人ゆうちょ財団 資産研究部長 細 谷 正 人
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書評
江口政宏 著『中小企業の外国人雇用-その現状と課題、活用へのヒント-』
信金中央金庫地域・中小企業研究所主任研究員 品 田 雄 志
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中澤高志 著『ポスト拡大・成長の経済地理学へ 地方創生・少子化・地域構造』
鳴門教育大学准教授 畠 山 輝 雄
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お問い合わせ先
一般財団法人ゆうちょ財団 貯蓄経済研究部
〒162-0845 東京都新宿区市谷本村町2-1 クイーポビル9階
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