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金融・経済コラム

統合型リゾート(IR)実施法案は、今、必要不可欠なのだろうか

4月27日、政府はカジノを含む統合型リゾート(IR)実施法案を閣議決定し、国会に提出した。カジノ解禁は長年の懸案事項だったが、ギャンブル依存を助長するなどといった反対意見が根強く、これまで法案提出まで至っていなかった。政府はIRを2020年の東京オリンピック・パラリンピック後のインバウンド(訪日外国人誘致)の起爆剤にしたい考えで、2030年の訪日外国人数6,000万人、消費額15兆円という目標を何としても達成したいと意気込む。

法案の概要は以下の通りだ。

@ ギャンブル依存症対策の一環として、日本人や日本在住外国人の入場を連続する7日間で三回、28日間で十回までとする。
A 入場への抑止効果を高めるため、入場料を日本人や日本在住外国人を対象に6,000円とする。
B 本人や入場回数の確認はマイナンバーカードで行う。20歳未満や暴力団員は入場禁止。
C カジノ収入に対する国や自治体への納付金率は30%。国と自治体は納付金を折半で収受。
D IR設置数は3ヶ所、最初の認定から7年後に設置数を見直す。
IR全体に対するカジノ機器設置面積の割合は3%以内。 
カジノ事業は免許制とし、3年毎に更新。不正免許取得事業者には5億円以下の罰金。 
カジノ事業を監督するために委員長と四人の委員から成るカジノ管理委員会を内閣府の外局として設置。委員は国会同意を得て内閣総理大臣が任命する。 


R法案の成立を前提にカジノ誘致を目指す自治体は大阪市、佐世保市、和歌山市、釧路市等8市村だ。このうち、横浜市は一時前向きだったが、ギャンブル依存症対策が不透明として慎重姿勢に転じたそうだ。長崎県と佐世保市はテーマパーク「ハウステンボス」地域への誘致を目指すが、カジノ、五つ星クラスのホテル、会議場などの整備を想定し、年間集客740万人、九州全体での経済波及効果年間2,600億円を目論んでいるそうだ。

大和総研はシンガポールと同規模の施設を横浜、大阪、北海道に整備した場合の日本全体としての経済波及効果を年間約2兆円と試算する。

世界のカジノ市場は1,700億ドル(約18兆円)に達するとされる。だが、二大市場の米国とアジアでは収益は下降気味だ。マカオでは2017年約330億ドルの賭博収入があったが、それは2013年の7割に過ぎない。米国ラスベガスでも大手事業者MGMリゾーツの2017年営業利益は2割近く減少したという。

このような状況の中、世界的なカジノ事業者は世界第三位の経済大国日本がカジノ解禁に踏み出すことは収益回復の千載一遇のチャンスだと受け止め、上述の誘致自治体に積極的に働きかけているという。


IR法案の成立によるカジノ解禁には課題も多い。ギャンブル依存症の増加はもとより、強盗等の関連する犯罪の増加、施設周辺地域の治安の悪化等懸念は尽きない。自民、公明、維新の3党は、IR法案より一足先に、ギャンブル依存症対策基本法案を国会に提出した。パチンコ等の既存のギャンブルも含めた依存症対策を推進することが目的だが、今回のカジノ解禁に国民の理解を得るための法案であることは間違いない。

法案は、法律の目的、ギャンブル依存症の定義、関係者の責務等を規定するが、最大の目玉は依存症対策推進計画の策定と財源の措置を盛り込んだことだ。ただ、依存症経験者を含む関係者で構成する会議から意見を聞いた上で計画策定や財源の措置を行うように政府や都道府県に義務付けたものの、具体的な対策の内容は法案が成立し実際の計画が策定されてみないとわからない。

この基本法案だけで国民の懸念を払拭しようとしても困難だ。朝日新聞の4月14日・15日の世論調査でも、7割がIR法案の今国会での成立は必要ないと回答している。


5月22日、IR法案は衆議院内閣委員会で審議に入った。だが、この法案への野党の抵抗は強く、森友・加計学園問題による国会の混乱も相俟って、通常国会会期末の6月20日までに成立するかは微妙だ。与党の公明党はギャンブル依存症対策基本法案の審議をIR法案より優先させるように求めており、それも考えると、国会の会期延長も視野に入る。

厚生労働省は、昨年9月、ギャンブル依存症の疑いのある人は全国に約70万人いるとの推計を公表した。だが、これは過去一年間で発症した疑いのある人の数で、それ以前の発症も含めると、罹患者は約320万人に上ると推計されているという。罹患者はギャンブルをやめたいと思いながらやめられず、家族や友人等周りの人を巻き込み、被害を拡大させるのが通例だ。罹患者の家族の8割超が借金の肩代わりをしたと言い、そのうち、肩代わりが一千万円を超えると回答した人が17.5%もいたという調査もある。

公益財団法人「日本生産性本部」によると、2016年の市場規模は、パチスロ・パチスロが約21.6兆円、競輪・競馬等の公営ギャンブルが約4.9兆円だという。国の社会保障費約33兆円(2018年度予算)にも及ぼうかという規模だ。カジノ解禁でこれを上回ることは想像に難くない。

ギャンブル依存症対策のため新たに法律を作ってまでカジノを解禁する意義はどこにあるのか、疑問は残る。ギャンブル依存症を少しでも減らしたいのなら、ギャンブルの種類を減らし、その機会を限定するのが最も効果的であることは衆議の一致するところだ。本末転倒ではないかとの思いが国民の懸念を増大させているということはないだろうか。


冒頭で触れた通り、IR法案の目的はIRをインバウンドの起爆剤にすることだ。経済再生への貢献と地域における雇用の創出も狙いであることは間違いない。カジノの解禁が招くギャンブル依存症の増加による医療費等関係経費の増大や犯罪の増加等社会不安の加速による経済的損失を上回る、インバウンドによる国家経済の規模拡大が達成可能なのだろうか。もう少し時間を掛けた慎重な議論と検証が必要だと思えてならない。海外のカジノ事業者を肥太らせるだけの政策になっては後悔しても後悔しきれない。

政府与党がIR法案を何としても成立させると決断すれば国会で絶対多数を握るだけに出来ないことはない。その場合でも、カジノ解禁はあくまでも訪日外国人のみを対象にすることは出来ないものだろうか。


(茶臼岳)
(2018年5月25日 掲載)

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