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金融・経済コラム

黒田日銀総裁の在任三年を振り返る

政府は、4月19日、日本銀行政策委員会の石田審議委員の後任に、新生銀行の政井貴子執行役員金融調査部長を充てる人事案を衆参両院議員運営委員会に提示した。与党が多数を握る両院本会議で可決した上で承認される見通しだ。石田氏は三井住友銀行の出身で、審議委員のいわゆる「金融枠」を埋めるメガバンク出身者だったが、マイナス金利導入を審議した1月29日の政策決定会合では反対票を投じた一人だ。それに対し、政井氏は、新生銀行金融調査部でマイナス金利の実体経済に対する好影響を指摘してその導入を評価したレポートをまとめている。3月末で退任した白井さゆり委員の後任の桜井真氏に続いてマイナス金利政策を評価する人材の登用は、黒田総裁がマイナス金利幅の拡大など追加の金融緩和をやりやすくするための布石ではないかとの憶測を呼んでいるのも、強ち間違っているとはいえないのではないだろうか。


黒田総裁の就任は2013年3月20日、この4月で三年が過ぎた。その四ヶ月前に発足した安倍政権と歩調を合わせ、「デフレ脱却と経済再生」を達成するため、異次元と称する大規模金融緩和に踏み切った。4月4日の金融政策決定会合で、2%のインフレターゲットを2年で達成するという目標を設定し、このため、長期国債の年間約50兆円新規買い入れを行い、マネタリーベースで年間約60-70兆円ペースの増加を行う金融市場調節を実施することを決定した。だが、目標達成に見通しが立たない状況にしびれを切らし、2014年10月には、一層の量的緩和の拡大を決め、長期国債買い入れ約80兆円、マネタリーベースでの増加約80兆円ペースへと増額した。この大規模緩和には反対意見も多く、政策決定会合では5対4の僅差であったことを忘れてはならない。この結果、日銀の資産規模は2016年3月末時点で410兆円にまで膨らんでいる。これはGDPの80%にも相当する規模だ。米国連邦準備制度理事会(FRB)の約25%、欧州中央銀行(ECB)の約20%に比べても突出している。これだけ、大量の資金を市中に投下しても、設備投資や消費の顕著で安定的な拡大は見られず、生鮮食品以外の消費者物価上昇率は、消費税引き上げの影響を除くと、2014年4月に前年同月比1.5%まで到達したものの、その後は失速し、最近は0%付近で低迷している。


黒田総裁は強力なリーダーシップを発揮して金融政策を思い通りリードするタイプのようだ。上述の量的緩和の拡大を決めた金融政策決定会合が僅差の薄氷を踏むような展開だったこともあってのことだろう、2015年6月にこの会合の開催頻度を従来の半分程度の年間8回に縮小している。5対4の僅差での決定ということは、総裁と二人の副総裁を除く外部の審議委員だけを見れば、4対2で否決されるということだ。余計な議論はしたくないという意図なのだろうが、黒田総裁の考え方に近い審議委員を登用して周りを固めることとも相俟って、わが国の金融政策の中立性や公正性は維持されるのか心配だ。


2016年1月29日、黒田総裁は、金融政策決定会合を5対4の僅差で押し切り、我が国金融史上初めて、マイナス金利の導入に踏み切った。本件マイナス金利については、本コラム「日本銀行のマイナス金利導入はデフレ脱却・経済再生に功を奏するのか」に詳しいが、関連する報道資料を読むと、以下の部分が目を引く。


「(4)「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の継続

日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」を継続する。今後とも、経済・物価のリスク要因を点検し、「物価安定の目標」の実現のために必要な場合には、「量」・「質」・「金利」の3つの次元で、追加的な金融緩和措置を講じる。」


−0.1%で始まったマイナス金利は今後金利幅を拡大し期間を問わず実施する強い意志が感じられ、長期国債年間約80兆円買い入れの更なる拡大も諦めていないことを示しているように思える。当初決めたインフレターゲット達成のためなら手段は選ばないという覚悟を決めた宣言のように見える。黒田総裁が自ら「常識を超えて巨額だ」と評して始めた大規模金融緩和は、「量」・「質」・「金利」の3つの次元での追加的な金融緩和措置に拡大したものの、いつかは緩和の「出口」に向かわなければならず、金利上昇局面に移れば、国債価格は下落し、マイナス利回りの国債保有も相俟って、日銀の資産が毀損することは避けられない。出口をどうするのか、今は時期尚早と語らずとも逃れられるとしても、任期中にその目処を付けるのは、大規模緩和に着手した者の責任と言えないだろうか。


あらゆる政策にデメリットがあることは当然だ。金融政策とて例外ではない。大規模緩和で日銀の保有国債は331兆円(2015年12月末現在)に達したにもかかわらず、その利回りは自ら採用したマイナス金利で低下し、国債価格が下落すれば資産毀損の規模が大きくなるという事態は典型的な例だ。確かに、就任当初の時点と比べ、2016年4月には、日経平均株価は12600円台から16000円台に上昇し、為替は95円台から110円台へと円安に振れ、失業率は4.3%から3.3%に下がるなど経済指標に好ましい傾向が現れていることは間違いない。だが、三年間、手段を選ばずあらゆる政策を駆使して取り組んだにもかかわらず、就任当初設定した2%のインフレターゲットは二年どころか三年過ぎても、達成の見通しすら描けていない。その上、実施してきた幾多の政策のデメリットをほとんど語らず、「わが国の景気は、企業部門・家計部門ともに所得から支出への前向きの循環メカニズムが作用するもとで、緩やかな回復を続けており、物価の基調は着実に高まっている。」(マイナス金利導入時の報道資料抜粋)という強気な見方を変える様子はない。


黒田総裁は、今後、日本経済再生に向けた政府・日銀の政策連携が行き詰るような事態にもしも陥った場合、一方的に責任を負わされるのではないかと懸念されてならない。金融政策の限界を一番よく理解しているのだから、国民にその限界を率直に語って日銀への信認を繋ぎ止め、規制緩和の促進など構造改革の加速や景気浮揚のための適時適切な財政出動など、政府が実施を表明した政策の早急な具体化を急ぐように、厳しい注文を付けるべきではないかと痛感する。



(2016年4月27日 掲載)

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