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金融・経済コラム

郵政グループは上場しても採算性と公共性を両立できるか

日本郵政、ゆうちょ銀行、かんぽ生命が11月4日東京証券取引所に上場した。成熟産業で赤字体質を脱しきれない郵便事業を抱える日本郵政、民営化後預金残高が急激に減少したに もかかわらず新規事業への進出は制限され貸付け等の運用多様化を認められないゆうちょ銀行、保有契約高が急減しているのにゆうちょ銀行同様新規事業への進出が制限されているかんぽ生命。今回の上場は、史上初の親子新規同時上場という東京証券取引所も経験したことのないチャレンジングな状況の中、三社とも三ヵ年の経営計画を策定したものの成長戦略を描き切れず、配当性向50%を売りに投資家の関心を呼ぶしかないというのが実情だったのではないか。

だが、前身が国営事業だったという安心感や全国に展開している郵便局の地域密着性などから投資家の期待は予 想以上に高まり、購入予約が集中して抽選に漏れる人も出るような活況を呈することとなった。御祝儀相場も相俟って、売り出し予定価格を上回る初値が付き、上場は成功裡に推移したと言える。


しかしながら、勝負はこれからだろう。新規上場でひとまず購入し、高止まりを見極めてすぐに売り抜ける投資家が続出しないようにするには、確実に利益を上げ、約束した配当を続け、株価の上昇傾向を維持しなければならない。そのためには、三社とも安定的業績向上が不可欠であり、国営事業時代から引き継いだ事業内容、サービス商品の枠内に止まっていては不可能だ。

日本郵政では傘下の日本郵便が郵便事業に頼らず郵便局敷地などの再開発による不動産事業や全国各地のふるさと産品の通販事業など新規事業を展開しているが、郵便事業に次ぐ柱に育つまでには至っていない。ゆうちょ銀行とかんぽ生命は民営化後、他の金融機関との提携による住宅ローンの提供、新学資保険の販売など一部の新商品を出しているものの業績向上への貢献は微々たるものだ。資金運用の面では幅は広がっているものの国債運用比率の高い構造は変わっておらず、人材の強化も道半ばと見られる。郵政民営化法では、日本郵便は新規事業を届出で実施できることとなっているが、ゆうちょ銀行とかんぽ生命は株式の過半数が売却されない以上、国の認可を得なければ新規事業には進出できない決まりだ(郵政民営化法第110条及び第138条)。投資家向けに魅力ある成長戦略を描こうと思っても自由に戦略を構築することはできず、出来なければ投資家にそっぽを向かれ売却は進まないというジレンマを抱えている。

両社の大株主が国の出資を受ける日本郵政では国の影響力を排除できず、イコールフィッテングが確保されていないと主張する他の金融機関に配慮して新規事業に規制が掛かったわけだが、このようなジレンマを抱えたままでは、両社は上場したとはいえ、いつまで経っても真の民間企業に脱皮できず、いつか経営は行き詰まり、市場の落胆に晒されかねない。新規事業への自由な進出を可能とすべく認可を届出に緩和し、万一金融市場で公正な競争が阻害されるような事態が生ずれば、国が是正措置を命ずることができるといった方式を取れないものだろうか。


政府の郵政民営化委員会は会合を開き、自民党からの要望を受け入れ、ゆうちょ銀行の預入限度額を1000万円から1300万円に、かんぽ生命の加入限度額を1300万円から2000万円に引き上げる方向で検討することを決めた。上場が好感を呼んだもので、地方の利用者利便の向上にも資するとして12月25日に報告書をまとめた。金融機関を所管する金融庁は資産規模拡大によるリスク増大と競争上のイコールフィティングの観点から慎重に検討する方針だという。

そもそも、民営化後8年も経ち上場も果たした両社に預入や加入の限度額の設定が必要なのだろうか。限度額が撤廃されて資金吸収力が高まったとしても、それだけでは競争上の脅威にはならないはずだ。同時に営業力や資金運用能力が向上しなければ、業績の向上にも繋がらない。また、国が大株主の日本郵政が傘下におくゆうちょ銀行やかんぽ生命には、前身が国営事業だったという事実も相俟って、国による暗黙の保証があると受け取られやすいので、イコールフィティングを確保するため、限度額設定が必要だという主張は説得力を持つものだろうか。

現に、金融広報中央委員会が2010年に行った「家計の金融行動に関する世論調査」では、利用する金融機関を選択する場合、ATMや店舗の近接性が決め手と答えた人が8割近くを占めており、経営の健全性・信用力、店舗ネットワークの全国展開性との答えが約3割となっている。両社が日本郵政の傘下にあること自体が利用者の選択に有利に働くことはないと断言することは出来ないが、経営やサービス面で如何に利用しやすい環境を整えるかが勝負であることがこの調査結果からも明らかだ。金融機関は、いつまでもこのような主張をしていないで、利用者の立場に立った利用しやすい環境の整備において堂々と競争をすべきではないだろうか。限度額はもはや不要だと思うが、どうだろうか。


業績向上は投資家にとっても最大の関心事だが、国にとっても大きな関心事だ。日本郵政及び日本郵便に不採算地域も含め全国津々浦々に展開する郵便局ネットワークの維持を義務付けているからだ(郵政民営化法第7条の2)。業績向上なくして義務の達成も不可能だ。経営支援策として国の補助金支出や税制などの優遇措置は講じられていない。本来ならば、民間企業として自由な経営判断で不採算の事業や地域からの撤退は出来るはずだ。現に、地銀やJAなどの金融機関はもとよりJRなどの公共交通機関、役場の支所のような公的機関までもが、効率化を理由に一斉に撤退している。地方創生を政策の最重要課題の一つとして掲げる安倍政権にとっては、郵便局の撤退が現実のものとなれば、高齢化した過疎地の暮らしは成り立たず、地方消滅に拍車が掛かり、政権への信頼の失墜に繋がりかねない。

日本郵政の株式売却益が東日本大震災の復興財源に充当される仕組みも国にとっては重要だ。業績が上がらず健全な経営の維持が困難になれば、株価は下がり売却も進まず、充当される資金は縮小する。復興の進捗に支障を来たさないとは言い切れまい。どれほど優秀な経営陣でも採算性を達成せずして公共性を実現できるはずがない。


民間企業には通常課されていない規制はできるだけ早期に撤廃されるべきではないだろうか。公正な競争が確保されていない状況が生ずれば、国が責任を持って是正を指示する仕組みを講じておけば済むこと だ。日本郵政グループの経営陣に採算性と公共性の両立について経営努力と経営責任を迫り、義務の達成や復興財源を確実なものとするために、それが最善の方法だと思える。

そして、何より重要なことは、投資家はもちろん、国民一人一人が、利用者として、日本郵政グループの提供するサービスを積極的に利用して業績向上に寄与することだ。それが身近な地元の郵便局を守ることにも繋がると痛感する。



(2016年1月6日 掲載)

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