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金融・経済コラム

医療費削減は、国の財政はもとより高齢者自身にとっても喫緊の課題ではないか

厚生労働省は2014年度の医療費が速報値で初めて40兆円を超えたと発表した。2015年9月3日付け日経新聞は次のように伝えた。

「厚生労働省がまとめた2014年度の医療費が2日、分かった。患者負担と保険給付を合わせた総額は40.0兆円と前年度より7,000億円増えた。増加は12年連続で、40兆円台に乗せるのは初めて。高齢化で治療を受ける人が増えていることが主因だ。医療の公定価格にあたる診療報酬(医師の検査や治療、保険薬局の調剤などの公定価格。医療機関への報酬である「本体部分」と薬や医療材料の「薬価部分」があり、2年に1度改定。マイナス改定を続けていたが、民主党政権になってからは医師不足など医療の質向上を目的に引き上げの方向に転じる)の改定作業を年末に控え、どこまで削減に踏み込めるかが焦点になる。総額の伸び率は1.8%で、国民所得(国民総生産から固定資産である設備の消耗分と間接税分を差し引いて求めた数値)の10.8%に達した。後発医薬品の利用拡大などで伸び率は13年度の2.2%から縮小したが、高齢化による増加に歯止めがかかっていない。年金給付額の増加率(1.3%)も上回っている。」


医療費は2001年度から13年で10兆円増加し、40兆円の大台に到達した。急速な高齢化の進展で、「団塊の世代」が75歳以上になる2025年に向けて医療費は一段と膨らみ、54兆円に達するとの政府の試算もある。年金は物価スライド制で消費者物価や賃金の変動によって下がることもあり、その場合は支給総額は減少するが、医療費は高齢化とともに増加する一方だ。政府は2020年度に基礎的財政収支の黒字化を達成すべく税収で政策経費を賄えるように財政健全化計画を策定したが、政策経費の中で最も大きなシェアを占める社会保障費を漫然と増やしていては到底達成は困難だ。同計画では社会保障費の伸びを毎年1兆円規模から3年で1.5兆円程度に抑制すると表明した。医療費の削減は高齢化が進展すればするほど財政再建にとって急務であり、かつ基礎的財政収支の黒字化に与える影響は重大だ。


それでは、如何にして医療費削減を行うのか。8月11日付同紙は次のように報じている。


「政府は企業や自治体の医療費を抑制するため、月内にも甘利明経済財政・再生相をトップに据えた会議を発足させる。医療費の抑制に成功している優良事例を選び、全国の企業や自治体に導入してもらうように求める。医療費は企業や自治体によって大きな差があり、取り組みが遅れているグループを後押しすることで効率的に医療費を抑制できると見ている。会議の名称は「健康増進・予防サービス・プラットフォーム」。塩崎恭久厚生労働相や宮沢洋一経済産業相ら閣僚が参加する。経済・業界団体から日本医師会の横倉義武会長や日商の三村明夫会頭らも加わる。取り組みの分野は(1)糖尿病などの生活習慣病の重症化予防(2)レセプト(診療報酬明細書)のデータを活用した診療(3)ヘルスケア産業の創出・育成――などが柱。企業などの取り組みを阻む障壁があった場合は、規制を含めた制度改革を検討する。」


このプラットフォームが発足したとの報道には現時点で接していないが、医療費抑制の優良事例を全国の企業や自治体に横展開し、抑制効果を上げて行こうという取り組みは政府としては遅いくらいだ。例えば、広島県呉市では、市民のレセプトを独自にデータベース化して「無駄な医療費」削減に切り込み始めたが、月に15回以上病院に通う人には訪問指導し、安いジェネリック薬(後発医薬品)が使える人には通知を出して転換を促すとともに、医療費の高い人工透析を増やさないように糖尿病患者の生活指導にも乗り出すなど具体的な取り組みを展開している。医療費削減に直結した効果を上げている自治体や企業の優良事例は研究者等から多数報告されており、それらの横展開だけでも、このプラットフォームの結論を待つことなく、早急に具体化すべきではないだろうか。


高齢者一人ひとりが医療費削減に向けてすぐに取り組める具体例としては、

@ 日頃から出来るだけ身体を動かし、毎日運動を行う習慣を身に付け、病気を予防する
A 医療機関から処方された薬は薬局に申し出て積極的にジェネリック薬を使う
B 処方された薬を適切に管理し、飲み残し、飲み忘れを防止して、飲み残し薬の無駄な廃棄を防ぐ
C 自治体の保健指導などには素直に従い、健康維持イベントなど予防施策には積極的に参加する

などが上げられよう。


@については車などは使わず出来るだけ歩くことがもっとも基本ではないか。それが進化し、毎日一定時間一定距離をウォーキングする習慣が身に付けば最高だ。


三重県いなべ市の介護予防・健康増進活動「元気づくりシステム」では、ストレッチ、ウォーキング、ボール運動などを取り入れた健康増進運動を集会所なとで行う運動体験プログラムを推進しているが、このプログラムの参加者と非参加者とを比較すると、参加者の年間医療費は非参加者の二割減に達したとの成果が報告されている。

一人で継続して出来る運動としては、わずか10分間だが、毎日放送されるNHK教育テレビ朝の「みんなの体操」がお勧めだ。録画すれば好きな時間に運動が出来る。


Aについては国も積極的に取り組んでおり、厚生労働省はジェネリック薬の普及で2020年度には1.3兆円の医療費を削減できるとの見通しを示している。薬局もジェネリックの使用を顧客に積極的に勧めているが、了承が得られない限りジェネリックは処方されないので、一人一人の意識が大事だ。


Bの、患者が薬を飲み忘れたり、複数の医療機関から同じ薬を処方されたりして生じる薬の飲み残し、いわゆる「残薬」は、2012年度で29億円と推計され、残薬を生じたという患者は九割に上るとの報告がある。今年4月の中央社会保険医療協議会総会では、残薬の解消に向けた対策が必要との意見が出されたという。医師と薬剤師間の綿密な連携が不可欠だろう。


Cについては、一人一人の対応に掛かっているが、元気に年を重ね、コミュニケーションの機会を増やして認知症を予防するためにも不可欠といえるのではないか。


高齢者がこのような医療費削減に関心を示さず、漫然と生活し、病気を発症して医療機関に掛かり続ければ、医療費の削減は進まず、増大する経費を賄うために健康保険料の値上げ、診療報酬の改定による患者負担分の増加、前期・後期高齢者の医療費自己負担割合の増大などの措置に手を付けざるを得ない。それは苦しい家計からの支出を増やすことになり、引いては国民皆保険制度の崩壊に繋がり、自らの首を絞めることになりかねない。ただでさえも逼迫している国の財政は、このまま医療費を含む社会保障費が増大し続ければ、財政破綻に突き進むしかなく、大半の高齢者にとって唯一の収入源である年金の大幅削減に至ることはギリシャの例を見るまでも無く明らかだ。今こそ、高齢者一人一人が出来ることを地道に取り組むことが強く求められていると言えるのではないか。


(2015年9月11日 掲載)

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