1. ホーム >
  2. 金融・経済コラム >

金融・経済コラム

藤巻氏の主張は荒唐無稽か

ゆうちょ財団は、前身の郵貯資産研究協会時代から金融経済をテーマに、アナリスト、評論家、実務者などを招いてセミナーを開催してきた。2007年10月のゆうちょ財団への組織改編後は、「ゆうちょ資産研セミナー」と銘打ち、日本総研主席研究員藻谷浩介氏、東京大学教授伊藤元重氏、日銀副総裁岩田規久男氏といった金融界、学界の錚々たる識者を招聘し、喫緊の課題について示唆に富む講演会を9回にわたり開催し、好評を博した。その中でも、最も異色の講演者は2013年2月のセミナーに登場した藤巻健史氏ではないだろうか。同氏は外資系の銀行でトレーダーなどの実務を経験した後、金融の現場を熟知する評論家として言論活動を始め、自らの主張を実現するため国会議員になったという行動派だ。 藤巻氏の主張は一貫している。その内容は近著の『迫り来る日本経済の崩壊』に詳しいが、その要旨は以下の通りだ。


「失われた二十年」に象徴される日本経済の低迷はひとえに国力に見合わない円高が原因であり、本来ハイリターンを求めて海外投資に向けられるべき資産がリターンの少ない国債など国内投資に滞留し円が高止まりした結果だ。低迷を続ける経済を浮揚させるための景気対策の財源として発行される国債の残高は瞬く間に膨張し、国と地方の借金はこの20年で3倍となり一千兆円を超えた。

借金の返済方法は、所得税や消費税を50%にアップするなどといった大増税しか考えられないが、現実には国民に受け入れられない。誰も有効な解決策を見い出せないでいるうちに、一昨年12月に誕生した安倍政権は日銀総裁に黒田氏を登用し、タッグを組んで「異次元の量的金融緩和」を開始した。この一環として日銀は、毎月売り出される10年国債の約70%を買い占めるなど市場から大量の国債を買い始め、2014年末には長期国債保有高を190兆円まで増大させるとコミットしている。一見この緩和で大幅な円安株高が実現し、経済再生が現実のものになったかのように思われるが、これほど大量のマネーを市場に投入しても、安倍政権誕生後円安は10円程度しか進んでおらず、株高も15,000円台で打ち止め状態だ。一方で、日銀の国債市場介入で市場は脆弱化し、長期金利上昇という財政赤字へのアラームも鳴らず、財政再建をますます困難にしている。さらに一端緩めた金融政策をどこで引き締めに転ずるか、出口問題が喫緊課題だが、その対策を政府も日銀も持っている様子は無い。民間金融機関も徐々に国債を手放し始めており、日銀もいずれ大量の国債購入に終止符を打たざるを得ず、売買が成立しなくなった国債は大暴落し金利は高騰し、我が国は財政破綻への道を突き進むしかない。国債はデフォルトし、円も大暴落してハイパーインフレが何も知らない国民を襲い、塗炭の苦しみに陥るのは避けられない。だが、この異次元の大幅な円安が日本経済の再生をもたらすという皮肉な結果になるだろう。1990年代末の財政破綻を劇的なウォン安で乗り切った韓国のように起死回生の一手になるに違いない。


藤巻氏は、国会議員として国会の関連委員会の場で、財務大臣や経済再生担当大臣にこの借金の返済方法を質問し、黒田日銀総裁にも量的緩和の出口策を問い質したが、まともな答弁は無かったという。質問自体が相手にされなかった感があるが、方策が無いというのが真相だと藤巻氏は断言する。政府が、国政を円滑に運営し行政サービスの水準を維持するためには、予算編成上国債に頼る歳入構造を変えることはできず、借金は今後とも増大し続け、いずれ財政破綻に陥らざるを得ないと示唆すれば、国民の間にパニックが起こることは間違いない。危機感は共有できても、藤巻氏の議論に乗るわけにはいかないというのが現実ではないか。民間金融機関が国債の保有を徐々に減らさしていることが危機を煽ることにもなりかねず、海外の投資ファンドが国債売りを仕掛けてくれば、暴落による金利の高騰を避けるため日銀は何としても買い支えなくてはなるまい。

政府が財政破綻回避策について極秘のチームを立ち上げ検討に入っているという話は聞いたことが無い。極秘なのだから、漏れないのかもしれないが、国会質疑やメディア報道の一端にそれらしき記述が出て来たということもないようだ。いずれ国債のデフォルトで財政の破綻は避けられず、ハイパーインフレで借金を帳消しにするしかないという藤巻氏の主張を過激で荒唐無稽と突き放すことは簡単だが、この問題に的確かつ有効な解決策を提示できた専門家はいるのだろうか。国の財政制度等審議会は、2020年度に国・地方の基礎的財政収支均衡という目標を達成しても、その後に収支改善を行わなければ、名目3%・実質2%の経済成長が続いたとしても、2060年度には8,000兆円を超える借金が積み上がり、他方で、現在のGDP比2倍超の借金を2060年度でGDP並み(約2,000兆円と想定)に圧縮するためには、GDP比で7%近い大幅な恒久的収支改善策が必要と推計している(「財政健全化に向けた基本的考え方」(平成26年5月30日答申)及び本コラム「国と地方の借金は誰が背負うのか」参照)。

仮に破綻を先送りにする方策だけしか講じることなく、破綻に直面した世代には耐え忍んでくれという姿勢であるとすれば、国の将来を託された現政権としては責任を果たしたとは言えまい。早急に、財政破綻に危機感を共有する専門家や国の財政政策に責任を有する与野党を超えた国会議員・官僚を結集し、政府、国会一体でタスクフォースを立ち上げ、財政の将来を見通して今講ずべき施策を取りまとめ実施すべきだ。国民にも事態の急迫性を十分説明し、仮に過酷な痛みや負担であっても背負う覚悟を持つように働き掛けるべきではないか。その上で万が一の事態も想定して、出来るだけソフトランディング可能な方策も準備しておく必要がある。今後更なる高齢化の進展等財政を取り巻く情勢は厳しいと見込まれるが、痛みや負担は世代間に渡って等しく分担する仕組みが不可欠だ。英知を結集し、行動を起こすのに、残された時間はわずかしかないと思えてならない。


このページの先頭へ戻る