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金融・経済コラム

「アベノミクス」は日本経済を再生できるか

「アベノミクス」という用語は、2012年12月26日に発足した第二次安倍晋三内閣の経済政策において、マスコミ等において命名され、市民権を得たように思われるが、そうではない。六年前の第一次安倍内閣において、当時の中川秀直自民党幹事長などが、前政権である小泉純一郎内閣の「構造改革」路線を継承し、財政支出の削減による公共投資縮小と規制緩和による成長力向上を目指す経済政策の総称として用いたのが最初だという。第一次安倍内閣は短命に終わったため、この時の「アベノミクス」は定着しなかったが、第二次安倍内閣の誕生で、その内容は一変したものの、中心的経済政策である「デフレ脱却と経済再生」の代名詞となった感がある。その根幹をなす三本の矢、すなわち、@大胆な金融政策、A機動的な財政政策、B民間投資を喚起する成長戦略のうち、最初に講じた金融政策で、2%のインフレターゲットを設定し、日銀法改正も視野に入れ大量のマネーを市場に供給するという異次元・無制限の金融緩和措置を取ったこともあり、アメリカ大統領ロナルド・レーガンの経済政策レーガノミクスに擬えてアベノミクスと称されるようになったらしい。

@ 大胆な金融政策は、自民党が2012年12月の総選挙で勝利し政権に復帰する前から、公言されていたため、前月11月から市場において円安株高傾向を惹起し、日経平均株価は翌13年2月にかけて12週連続で上昇し、54年ぶりの記録を刻むこととなった。2013年3月にはリーマン・ショック前の水準に戻し、5月には15,000円台を回復するという驚異的な回復の動きを示している。一方、円相場も急速な円安傾向を示し、同じく5月には1ドル100円を記録し、政権発足5か月で20円も下げた。「失われた20年」に象徴される日本経済の低迷に倦んでいた国民の間に経済再生の期待が急速に膨らんだことは事実だが、3大メガバンクの税引後純利益が13年3月決算で合計2兆円を超すなど大企業が近年にない業績を示す一方、4月の時事通信の世論調査で景気回復を実感していないと答えた人が7割を超すなど期待先行で実体経済の回復の兆しはまだ見えなかった。日経平均株価は13年12月30日の大納会に16,291円を付けたものの、翌14年1月6日の大発会で400円近い大幅安となり、その後は14,000-15,000円台を行き来している。このようにアベノミクス第一の矢は、日銀の大量買い入れにより国債の需給が引き締められた結果、大幅な円高株安と同時に長期金利の上昇抑制にも成功するなど、企業行動を積極的な方向に転換させる「失われた20年」からの脱却に一定の成果をもたらした。

A 機動的な財政政策では、政権発足当初、10兆円規模の2012年度補正予算を組み、公共投資による有効需要の創出という形で景気浮揚に一定の効果をもたらすとともに、2014年4月からの消費税8%への増税による景気の腰折れ回避のため、2013年10月には経済政策パッケージを発表するなど積極的な姿勢を貫いた。だが、手法が旧来的な公共投資偏重型で効果が限定されるとともに、莫大な財政赤字を抱えているにもかかわらず中期財政計画が財政再建への道筋を明確にできなかった上に、2014年度予算では、消費税増税で税収増大の予測もあり歳出削減の努力が十分行われなかったとの批判も少なくない。

B 民間投資を喚起する成長戦略はアベノミクスの根幹であり、2013年6月に「日本再興戦略」を策定して持続的な成長への目標と施策を提示し、12月にはこのうち産業基盤強化の枠組みとなる「産業競争力強化法」を成立させた。その中心は、医療、農業、雇用など個別重点分野での岩盤規制の抜本改革、この規制改革や税制優遇などの取り組みを集中して行う国家戦略特区の推進、産業競争力の強化、経済の好循環実現に向けた所得増をもたらす賃金の引き上げだ。成長戦略に盛り込まれたこれら施策が予定された成果を上げ、「需要増→生産増→所得増」の好循環が実現する経済成長スパイラルに乗せられるかどうかがアベノミクスの成否を握っていると言っても過言ではない。


今のところ、実体経済の指標は、消費者物価指数(コア指数)が2014年7月で対前年比+3.3%、設備投資が2014年4月―6月で対前年比+1.9%、2014年7月期現金給与総額が全産業速報値で対前年比+2.6%などの数値を示し、アベノミクスの効果を表しつつあるが、消費支出は2014年7月で対前年比−5.9%と4月の消費税8%への引き上げの影響を脱し切れていない。一方、経常収支は2014年6月速報値で3,991億円の赤字で、そのうち、貿易・サービス収支は7677億円の赤字で2012年4月以降27か月連続で赤字を計上している。福島原発事故以降火力発電にシフトした発電用輸入燃料経費の増大とアベノミクスの大幅な円安が主な要因だ。2014年度は成果を確定させる勝負の年だと言えるが、アベノミクスは、世界が分業体制を確立し生産拠点がアジアなど海外に広く移転している状況にもかかわらず、旧態依然たる製造業を中心とした「貿易立国」復権に固執し、IT、金融業など高度なサービス産業への産業構造の抜本的転換を目指していない点でグローバル化に対応出来ておらず、インフレ・円安誘導政策が、所得増を実感できていない消費者の購買意欲を削ぎ、輸入関連企業の業績を悪化させることも相俟って、日本経済の持続的成長を達成できないという批判も根強い。
どのような政策にもメリット・デメリットはあり批判は覚悟の上であろう。それよりも、アベノミクスの成否に取って最も大きな懸念は、推進のリーダーシップを取るべき安倍首相の経済再生にかける意欲に陰りが見えることだ。政権2年目に入って、特定秘密保護法の成立、集団的自衛権容認の閣議決定などの例を上げるまでもなく、安全保障や外交課題への取り組みにその重心が移り、経済政策への関心が希薄になっていたように見える。だが、9月3日に行われた内閣改造では、アベノミクス推進の中核的役割を果たす麻生財務相、甘利経済再生担当相などを留任させ、女性で若手の小渕優子氏を経済産業相に抜擢し、成長戦略の確実な実施による経済再生に最優先で取り組むと自ら断言した姿は心強い。成長を続ける経済と健全で安定した財政を確立して、初めて、外交交渉も安全保障も有効に機能し、成果を上げ得ることを忘れてはなるまい。


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