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金融・経済コラム

アルゼンチン国債デフォルト懸念は日本とは無縁の出来事か

アルゼンチンは、第二次世界大戦に巻き込まれなかった数少ない国として戦後経済の発展を享受したが、その後の政府の放漫財政は累積債務問題とハイパーインフレをもたらし、政府は経済運営に関し苦境に陥った。1991年にカレンシーボード制(1ペソ=1ドルの相場固定制)を導入したことにより、長い間懸案だったハイパーインフレを脱却し、1995年のメキシコ通貨危機直後を除き、海外からの多額の資本流入によって高い経済成長率を達成した。

しかしながら、1997年〜1998年のアジア通貨危機、1999年のブラジル通貨危機(米ドルに対するソフトペッグ制を放棄し、ブラジル・レアルが変動相場制に移行)を契機に、アルゼンチンへの資本流入が先細ると共に、同国の対外債務に対する信認は大きく下落した。具体的には、米ドルの上昇などによる貿易赤字が拡大し、景気悪化と財政赤字、そして対外債務の急激な膨張に直面することになったのだ。

さらに、2000年秋からは国債金利上昇など金融市場が不安定さを増したため、IMF(国際通貨基金)が支援に乗り出したが、IMFは支援の条件として財政・金融の大幅な緊縮策を求め、その結果2002年の実質GDPは−10.9%の大幅なマイナスとなった。このため、ついに2001年末に対外債務の支払い停止(デフォルト)を宣言する事態に陥った。2002年2月には変動相場制に移行し、ペソ相場は大幅に下落したが、その後、世界的な鉱物資源等の価格上昇を追い風に貿易収支が改善し、対外債務問題解消に向けて精力的に取り組むこととなった。

公的債務については、IMFに対する債務を2006年までに完済し、その管理下からいち早く脱する一方、外国政府に対する債務については、2008年、一括返済の方針を表明したが、 リーマンショックによる世界的な金融危機の煽りを受けて撤回せざるを得ない事態となった。2010年にバリクラブと呼ばれる債権国団(日本も構成国の一つ)との返済交渉を再開し、現在、政府部内に新しい対応組織を設けて交渉を継続している。外貨準備が減少する中、アルゼンチン政府にとっては、公的債務問題を出来るだけ早く解決し、デフォルトによって閉ざされた国際資本市場からの資金調達を可能にすることこそ、喫緊の課題と言えよう。 一方、民間債務については、2005年と2010年に債務再編を強行し、2、3割に価値を切り下げた新規国債との交換を約91%の債権者との間で合意したが、残りの債権者はこれに応じず、原債券を保有し続けている。政府は前者には切り下げた条件での支払いに応じているが、後者には一切支払いが行われていない。

このため、原債券保有者の一部はこの差別的取り扱いが債権者平等条項に違反するとして米国連邦裁判所に提訴した。2013年6月16日、連邦高裁は最終的に地裁の判断を支持し、原債券保有者に要求通り全額の返済に応じるよう命ずるとともに、この返済が行われるまで新債券保有者への利払いの停止を決定した。このため、6月末の利払いは停止され、猶予期間の7月末までに利払いが行われないと、アルゼンチン国債は再びデフォルトに陥る可能性が出来している。政府は原債券保有者と再交渉する予定だが、新債権保有者も納得させられる打開策は見当たらず、解決はかなり困難とみられる。

アルゼンチンは過去最もデフォルトに陥った回数の多い国の一つだ。政権が国民に迎合する政策を行って財政を悪化させるケースが多いのが原因だが、日本もその類だと言われないようにすべきだろう。

我が国は、戦後、第二次世界大戦の敗戦を受けて、事実上のデフォルトに陥った経験を持つ。ハイパーインフレが国民を襲ったために、戦前発行された国債は紙屑同然となった。この記憶が残る世代は少なくなり、高度経済成長を謳歌した世代が今国を動かしている。 1989年のバブル崩壊後、「失われた二十年」という言葉に象徴されるがごとく、我が国経済は長い低迷の時期を過ごしてきたが、政府は、その間も上がらない税収を補い歳出規模を維持するため、多額の国債を発行し続けてきた。1989年度末の累積国債発行額は161兆円だったが、2013年度末は744兆円を数え、特に2009年度から2012年度は税収を超える新規国債を発行し続けた。大きなデフレギャップを埋めるために政府が公共投資や社会保障に多額の予算を支出し、恐慌を未然に防いだとの評価がある一方、国民の不満を抑えることに注力し、国債発行を抑え予算を縮減して国民に倹約や節減という厳しい生活をお願いする困難な選択を先送りにしたという見方も少なくない。アルゼンチン政府と、現象面での違いを見つけることは難しい。

2013年度はアベノミクス効果もあり、税収が約46.9兆円に達し、5年ぶりに新規国債発行額約43.4兆円を3.5兆円上回った。2014年度予算の税収見積もりは約50兆円と見込まれているが、これを上回る可能性もある。国の予算の歳出不用分や予算見積もり増加分は剰余金となり、2013年度は約1.4兆円あるが、法令上、半分以上は国債の償還に充当することが義務付けられているものの、政府与党部内では、早くも法人税減税や消費税10%増税後の景気対策に使うようにとの声が大きくなっているという。これまでの多額の国債発行を考えれば、1.4兆円すべてを国債償還に充てるべきではないかと考えられるが、そのような主張はどこにもない。2020年度には基礎的財政収支(プライマリーバランス)を黒字化するという政府方針の達成が困難となりつつある状況にもかかわらずだ。もはや、国債、地方債、財投債など公的債務残高全体の1,000兆円を超える数字は途方もなく大きく、まともに償還を考える気になれなくなっているのだとすれば憂慮すべき事態だ。

黒田日銀総裁は、2013年3月20日の就任以来、アベノミクス第一の矢として異次元の金融緩和を断行し、一部識者の懸念をも顧みず、大量の国債の買い入れによる市中への資金の供給に踏み切り、依然としてこれを維持している。この断行は当初大幅な株高と円安をもたらし、経済再生とデフレ脱却を速やかに達成するかに見えたが、1年余たった今、限界を露呈しつつある。成長戦略策定の遅延が原因だが、もともとタブーを破ったこの金融緩和は非常時の時限的な措置との見方もできる。

多額の発行済み国債の約95%は日本国民の所有だ。国民の金融資産は1,600兆円といわれるものの、その国債購入許容度は一段と厳しくなっている。外資に購入先を拡大しても、毎年発行される国債の規模からみて吸収するには限度があり、外資保有が増えれば増えるほどギリシャやアルゼンチンのような財政危機の引き金になりかねない。日銀が多数の銀行券=円を増刷し、買い入れた国債を市中に戻さず保有し続ける方法を始めざるを得ず、政府・日銀部内でそれは今しかないと考えたのかもしれない。

国債買い入れを徐々に行うことによりインフレも急激なものとはならないが、財政の規律への信頼と日銀の独立性への信認が薄れてくると、金利が急騰する危険性も内包している。財政破綻やハイパーインフレをけっして招くことのないように、日銀による国債買入れ政策の終了という、いわゆる異次元の金融緩和の出口政策のソフトランディングを慎重に講じていく必要がある。


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