1. ホーム >
  2. 金融・経済コラム >

金融・経済コラム

マイナス金利とは何か

欧州中央銀行(ECB)が、6月5日、ユーロ圏全体でインフレ基調が弱く、成長が加速されず、通貨が高止まりしているとして、追加の金融緩和に踏み切った。需要の低迷で5月の消費者物価上昇率は前年同月比で0.5%に止まった。ギリシャやキプロスに端を発する債務危機の後遺症で南欧諸国で賃金が下がった結果、モノが売れず、物価が広範囲で下がり続けるデフレ状態に陥っている。ユーロ圏全体で今年1月―3月期の実質経済成長率は前期比で0.2%であり、仏、伊に至ってはゼロ以下だ。そこにユーロ高が加わり、輸入物価を押し下げ、通貨高と低インフレの悪循環に苛まれており、打開策が求められていた。

本格的な景気刺激や銀行融資の拡大に金融緩和だけでは手不足と考えたのか、ECBは主要国・地域の中央銀行では初めてとなるマイナス金利政策を打ち出した。金融機関に資金を預けると利子が付くのが常識だが、域内銀行がECBに最低準備預金制度で法定されている額以上の資金を預けると金利が付くどころか逆に手数料を取られるというのだ。長引く債務危機で域内の銀行は融資の焦げ付きを恐れ、資金に余裕があっても企業への貸し出しを抑えECBに預けてしまうので、その規模は1500億ユーロ(約21兆円)に上るそうだ。マイナス金利で、この資金をコスト高になるECBではなく企業への融資に誘導し景気回復につなげようという意図だが、もともと資金の保有者はドイツなどの堅実な北部地域の銀行や域外の外資系金融機関なので、意図通り、展開するか専門家からも疑問視されている。ECBのユーロ高を食い止めデフレを阻止するという強い意思を感じ取ったのか、マイナス金利ぱ外国為替市場でユーロ安を導いたが、ECBの本音は意外とここにあったのではないかとの見方も根強い。

このような中央銀行でマイナス金利が導入された例は、これまでスイス、デンマーク、スウェーデンに見られる。1972年7月、スイス中央銀行は資金が過剰に流入するのを阻止するため、マイナス金利を導入したが、これが最初だ。

その後、久しくこの政策手段は取られなかったが、2009年7月、スウェーデン中央銀行リクスバンクが、リーマンショック後の世界的景気低迷による景気減速に対応するため金融緩和に移行したが、預金ファシリティ金利を−0.25%に引き下げたのだ。これは、日銀の当座預金にマイナス金利が適用されたようなものであり、資金に余裕があっても企業への融資に回さず中央銀行に預金するなら手数料を取るというメッセージに読め、市場は驚いたが、実態はリスクバンクの公開市場操作によって既に市中銀行の過剰資金は吸収されており、余分なコストが掛かるわけではないと分かり、関心は急速に遠のいた。

一方、デンマークでは、デンマーク国立銀行が、2012年7月、マイナス金利を導入した。これは南欧諸国の債務危機でユーロが売られた一方、北欧の通貨は買われ、デンマークにも資金が流入してクローネ高が出現し、これを食い止めるため、導入されたものだ。この効果はいち早くあらわれ、2012年末にはクローネの相場は落ち着き、買い圧力は終息した。デンマークの場合はスウェーデンと違い、通貨の高騰対策という政策目的がはっきりとしたマイナス金利の導入であり、中央銀行もその意思を事前に明示していた。

わが国ではマイナス金利導入の事例はないが、次の応酬は注目される。

2012年11月15日、就任前の安倍首相が円高を防止し、市中銀行の貸出圧力を強めるため、日銀の政策金利をゼロかマイナスにするくらいのことをすべきとの意向を示した。上述のデンマークの事例が念頭にあったのではないかと想起されるが、これに対して、当時の白川日銀総裁は、11月20日の会見で、市場参加者が必要な時に市場から資金調達が出来なくなるという不安感の醸成、金融機関がマイナス金利のコストを貸出金利に上乗せしてかえって金融環境が引き締まるリスクなどの問題点を挙げて、導入に消極的な姿勢を示している。

わが国では、現在、黒田日銀総裁が大量の国債を買い取り市場に大規模な資金供給を行う異次元の金融緩和政策を推進し、デフレ脱却と経済再生に取り組んでいるが、その効果は徐々に現れ、円高の是正と株式相場の回復という成果を示した。マイナス金利という政策手段を導入する必要性も余地も無いというのが現状であろう。だが、市中銀行は大量の資金を国債など安全資産に振り向ける傾向が強いことは否めず、政府の成長戦略が構築途上であることも相俟って、企業、特に中小企業への融資にはなかなか回されず、経済再生も道半ばである。異次元の金融緩和に更なる金融緩和策が求められる場合、マイナス金利が検討される余地はないだろうか。


このページの先頭へ戻る