1. ホーム >
  2. 金融・経済コラム >

金融・経済コラム

日本郵政の中期経営計画は東日本大震災復興を後押しできるか

日本郵政は、2014年2月26日、「日本郵政グループ中期経営計画〜新郵政ネットワーク創造プラン2016〜」を発表しました。

その根幹は、社会経済等の環境変化の中で郵政グループの持つ豊富な経営資源を活用し、郵便局ネットワークの活性化を通じて企業価値の向上を目指すというものです。この計画の主要テーマとして、郵便局ネットワークと金融2社が有機的に結合し、新たな郵政グループを創り上げ、将来的には、お客様の生活と人生を支える「トータル生活サポート企業」としてお客様や地域・社会に貢献するネットワークへ発展していくことを目指す「新郵政ネットワーク創造プラン」を掲げています。また、中期的なグループ経営方針として、「主要三事業の収益力と経営基盤を強化」、「ユニバーサルサービスの責務を遂行」、「上場を見据えグループ企業価値を向上」の三本柱を設定しています。 2014〜2016年度の3年間の具体的な計画として注目されるのは、経営基盤を強化し、持続的な成長を実現するため、期間中のグループ投資1兆3千億円を予定していることです。この投資は、魅力的な店舗造り等の施設整備投資、サービス品質向上等に向けたシステム投資から、資産価値向上を目指した不動産投資まで多岐に渡っています。投資額を見ても、民営化後、約1,600億円/年だったものを、期間中、約4,300億円/年と、一気に3倍近くまで増やしており、「上場までに成長の基盤固めをしたい」という西室社長を筆頭とする経営陣の並々ならぬ決意を示していると言えます。

計画最終年度の2016年度経営目標を、

日本郵便が、郵便・郵便局事業収益3兆700億円、当期純利益280億円、
ゆうちょ銀行が、総貯金残高6兆円増、当期純利益2,200億円、
  かんぽ生命が新契約月額保険料500億円、当期純利益800億円、
グループ全体の連結当期純利益3,500億円とし、

安定した成長と経営環境変化への的確な対応を目的とした内部留保の確保、経営成績に応じた株主への継続的かつ安定的な利益還元を目指しています。

これら経営目標達成のために、

日本郵便は、成長分野の通販市場などでの小荷物輸送を拡大し、ゆうパック取扱5億個(対2013年度見込み比約20%増)、ゆうメール取扱40億個(対2013年度見込み比約25%増)を目指す、
ゆうちょ銀行は、個人顧客向けの夜間・休日相談窓口の開設や法人営業の強化などを通じて、毎年度1%程度の総貯金残高の増加を実現し、残高183.8兆円を目指す、
かんぽ生命は、郵便局渉外社員2万人体制や改定学資保険の販売開始などを通じて、新契約月額保険料500億円(対2013年度見込み比約17%増)を目指す、

としています。

盛り込まれている取り組み施策は、競合他社が既に実施しているものもあり、目新しいものが多く含まれているものではありませんが、経営陣を始め四十万社員が一丸となり着実に取り組めば達成可能なものばかりで計画の堅実性が窺われるのではないでしょうか。中期経営計画は、2007年10月の民営分社化後、経営陣の策定意志は表明されても、なかなか現実のものにならなかっただけに、今回の発表は予定通りの上場実現に向けて大きな意味があるものと考えられます。この中期経営計画は来年春の日本郵政の上場を睨み、投資家に経営基盤の強化と成長の持続性を訴求し、投資意欲を喚起することが大きな目的の一つです。この上場により現在政府がすべて保有する株式が市場で一般投資家に売却され、株主が多様化することによって、日本郵政グループは政府の圧倒的な影響力を脱し、真に民間企業としての地位を確立すると言えるのではないかと思います。


一方、日本郵政の中期経営計画発表からちょうど二週間後の3月11日、東日本大震災は発生から3年目の日を迎えました。津波で壊滅的な被害を受けた被災地はようやく瓦礫がほぼ取り除かれたものの再生した姿を描くには程遠い状況です。災害公営住宅や集団移転先の整備も進まず、とりわけ、福島第一原発事故の処理は一進一退を繰り返すばかりで、周辺自治体への帰還の見通しは立っていません。このため、全国に避難する被災者は、今なお26万人を超えると言われています。

当時の民主党政権は、震災直後、復興期間を10年とし、復興に掛かる経費を総額23兆円以上と見積もりました。併せて、2011年度からの前半の5年間を集中復興期間と位置づけ、自治体の負担も含め、19兆円を投入すると決定しました。この経費を子ども手当の縮小など経費縮減と所得税・法人税などの特別増税で賄う予定でしたが、2012年度までで経費は17.5兆円まで膨らみ、2012年末に誕生した安倍政権は2013年1月、将来の日本郵政株売却益を当て込み、復興予算枠を25兆円に拡大せざるを得ませんでした。しかしながら、その後も予算は膨張し続け、2014年3月20日成立した2014年度予算まで入れると約23兆円に達し、近い将来25兆円の予算枠を超えるのは確実と言われています。この状況を踏まえ、復興が進んでいると実感できない被災地では、地元自治体を筆頭に、政府に予算枠の増大を訴えざるを得ないとの声が上がっているようです。
既に、政府としては、6兆円ともいわれる日本郵政株の売却益を復興予算枠に組み込んでいるだけに、日本郵政の来年春の上場とできるだけ高い価格による売却が円滑に進むことを期待せざるを得ません。政府は、今回の中期経営計画について、策定そのものだけでなく、公表による市場や投資家へのインパクトにも強い関心を持っているのは間違いないでしょう。市場や投資家の評価を高めるためにも、グループ全体の企業価値の向上を目指した不断の努力が必要です。政府も、震災復興資金の的確な確保の観点から、日本郵政グループが熱望する住宅ローンやがん保険などの新商品開発販売に理解を示し、この努力を後押しすることが強く求められるのではないでしょうか。

日本郵政グループが展開する郵政事業は創業140年を超え、この間、一貫して、郵便局を通じて、地域に密着し貢献する事業展開を進めてきました。民営化した現在でも郵便局そのものの必要性と提供するサービスの不可欠性は些かも減少していないといっても過言ではありません。それだけに、東日本大震災が東北の多くの地域を破壊しコミュニティを寸断した惨状に、郵便局自体も一部機能不全に陥りながら、グループ全体としても、社員としても、迅速な復興に出来る限り役に立ちたいという思いが人一倍強いのではないでしょうか。


苦渋の決断で民営化に舵を切った日本郵政グループが、政府が保有する株式の売却益を通じて大震災からの復興の資金確保に寄与することなど、民営化当時は想像もできないことでしたが、地域と強い絆で結ばれた郵便局であればこそと、その強い因縁を感じざるを得ません。日本郵政の上場が、日本郵政グループ全体を、我が国を代表するエクセレントカンパニーに導くだけでなく、東日本大震災からの一日も早い復興に対する強力なバックアップになることを期待しようではありませんか。


このページの先頭へ戻る