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金融・経済コラム

日本郵便のCSR(企業の社会的責任)とは何か

日本郵便は、2013年9月1日、TOKYO FM他36局を有する全国FM放送協議会(JFN)と「災害時における地域情報ネットワーク構築に関する協定」を締結した。24,000の郵便局が窓口業務、郵便配達などを通じて取得した被災地の被害状況などの地域情報や郵便局の窓口・ATM営業状況、郵便物の引受・配達状況、貯金・保険の非常払いに関する情報を、本社・支社から各FM局に提供し、JFNが県域放送から全国ネット放送までネットワークを臨機応変に活用し、被災地を始めとして全国のリスナーに提供する。各地で両者の連絡協議会を立ち上げ年内にも全国で情報連携ができる体制を構築するという。

同様の取り組みはJFMとイオンとの間でも行われ、両者は11月1日「災害時における防災ネットワークに関する協定」を締結した。イオンの各店舗が店舗への一時避難者の状況、周辺地域の被害状況、避難所の模様、店舗の営業・サービス情報などを所在地のFM局に提供し、JFNが県域放送から全国ネット放送までネットワークを活用して全国のリスナーに提供する。イオンは、将来的には、自治体にもこの情報を提供し、近隣住民に直接情報を伝えることを目指すそうだ。イオンの場合は、店舗を一時避難場所に提供したり、生活必需品や防災用品をストックし災害時に供出するなど郵便局とは異なる取り組みも可能だ。


日本郵便は、前身の郵政省、日本郵政公社の時代から、郵便局ごとに地元自治体と防災や災害復旧復興に関する協定を締結し、防災面での協力や被災・避難状況、営業・サービスの状況などの情報提供を行ってきた。業務を通じて住民とのコミュニケーションを図り、地域住民の家族構成や生活状況などに熟知している郵便局は、地域に密着し全国津々浦々に存在していることから、市町村合併の促進で広域化し行政区域に目配りが行き届きにくい自治体にとっては、特に災害時は頼りになる存在だ。近年は、ゆうパックの引受を扱うローソンなどのコンビニと災害時における相互の情報提供や物資の輸送供給などに関する協定も締結してきた。2015年の上場を目指し、「総合生活支援企業」への脱皮を掲げ、地域の「安全・安心・信頼・便利」の拠点としての役割を果たすため、さらにFM局との連携を進め、地域住民への情報提供を強化しようというわけなのだろう。


これらの取り組みは日本郵便のCSRの一環として位置づけられるものであろう。 だが、このような取り組みを積み重ねることは大事ではあるものの、本当に日本郵便が果たすべき本来のCSRなのであろうか。


郵便局ネットワークは直営店舗約20,000と委託店舗約4,500を有し、国営から公社・民営に経営形態が変わっても、ほぼその規模を維持している。また、基本的にすべての世帯まで低廉な料金で毎日郵便やゆうパックを届ける郵便ネットワークも健在である。しかし、不採算地域も含めたこれらのネットワークを維持するためにかかるユニバーサルサービスコストは膨大だ。

これを賄うために、国営時代には、郵便には信書の独占が厳格に適用され、貯金の資金は政府の財政投融資制度の原資の一つとして市中より有利な政策金利の適用を受けていた。何より、国営の事業として、法人税など負担が必要な税を免除されていたのだ。いわば、ユニバーサルサービスコストを賄うための原資を与えられていたとも言えよう。

公社時代に入ると、信書独占の法的位置づけは変わらなかったものの、宅配業者による明らかに信書とわかるメール便が横行し、独占は形骸化の道を辿った。財政投融資制度も公社化直前の2001年に廃止され、資金は自ら市中で運用することとなり政策金利適用の資金は激減した。税体系は変わらなかったものの、剰余金の国庫納付制度(日本郵政公社法第37条)により、公社期間中に約一兆円の納付を行った。

民営時代に入ると、信書独占の形骸化はますます深刻となる一方、資金は民間と同様市中での運用であり、税は一般企業と同様の賦課がなされている。

今や、ユニバーサルサービスコストの捻出は自らの事業の利益の中で手当てするしか方法はない。長く続いたデフレと景気低迷の「失われた二十年」の間、コスト削減のため、農協や民間金融機関が中山間地域を中心に有人店舗を急速に縮小し、ATMやインターネットバンキングに大幅に移行した後も、日本郵便は有人店舗を原則維持し、ネットなどの時代の変化についていけない高齢者にも優しい対応を取り続けている。依然として地域のコミュニケーションの核となり行政の補完的役割さえ果たしている。超高齢社会到来を間近に控え、これこそ、日本郵便の究極のCSRではないだろうか。


最近、ヤマト運輸クール宅急便の温度管理を巡ってサービス水準が守られていない実態が明らかになり、社会の大きな批判を招いているが、日本郵便にも同様の不祥事が発覚している。本業に遺漏が生じては顧客離れが生じ、収益の確保もままならず、ユニバーサルサービスコストの維持にも大きく影響する。


社会的存在である企業にとって、CSRはその商品やサービスに対する評価だけでなく、企業そのものの存在価値をも左右する重大な社会的責務だ。細かな施策を総花的に実施して郵便局や支社などの現場の経営資源を費消するよりも、究極のCSRを確実に果たすために経営資源を集中させるべきではないだろうか。そして、そのためにも、顧客に約束したサービス水準を堅持するなど本業を確実に推進し、健全経営のゆるぎない基盤を構築することが肝要ではないだろうか。


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